コード進行の謎に迫る!バークリーメソッドで読み解く楽曲分析
第6回:サニーデイ・サービス『Wild Grass Picture』を分析!



バッファロー・ドーターなどの活動でも知られる音楽家/デザイナーの山本ムーグさん、デザイナー/イラストレーターの小田島等さんの二名が講師を務める講座『NEW ROCK ART』が、2015年度より美学校に新設されます。この両名といえば、いずれも90年代カルチャーを語る上で欠かせないキーパーソンに数えられます。2010年も折り返しを迎えた今、90年代を再考するのに良いタイミングが来ているかもしれません。当時の空気を皮膚感覚として知る二人による音楽を切り口としたアートやデザインの世界を勉強してみては如何でしょうか。
41J07TN5VTLという訳で今回は、90年代日本のポピュラーミュージックを彩った名曲の楽曲構造を分析していきたいと思います(強引)。小田島等さんがジャケット・デザインを担当していた事もあり、90年代渋谷系を代表するバンドの一つである『サニーデイ・サービス』の楽曲構造をみていきましょう!

Ⅲ7の効果を検証しよう


という訳で、こちらの楽曲構造をみていきます。フォーキーな肌触りの中に散りばめられたスパイスがよく効いており、シンプルながらも飽きの来ない名曲ですね。

楽曲の魅力を引き立てるスパイス的なポイントはいくつかありますが、ここでは『Ⅲ7』というコードに注目してみましょう。

Ⅲ7はダイアトニック上にはないコードですが、汎用性が高く、楽器をプレイする人であれば「意識していないけど手癖でつい使ってしまっている」という人も多いのではないでしょうか。

とりあえずこのⅢ7の醸し出す効果について、実際に音を聴いて確かめてみましょう。こちらの進行を聴いてみてください。

C△7 – E7 – Am7

どうでしょう?こういうコード進行の曲、聴いたことありますよね。
この時のE7が『Ⅲ7』にあたる訳ですが、何ともいえず『切ない感じ』がしませんか?

この切ないⅢ7がどこから来たのか?
それは、『そのキー(調)の平行短調に向かうためのⅤ7』と解釈することが出来ます。

調性には、明るい『長調(メジャー)』と悲しい『短調(マイナー)』があり、それらが噛み合って一つのキー(調)を構成しているのですが、このⅢ7は、その調における短調への移行を強く想起させるサウンドとなっているのです、

さながら、明るい世界から悲しい世界への架け橋、といったところでしょうか。

コード進行には重力のようなものがあり、ある音からある音へ移動しようとする力がしばしば生じます。その移動しようとする力を使う事で、このように様々な効果を持たせる事が可能となっている訳ですね。

コード進行


イントロ

D△7

平歌
D△7 Em7 |♯Fm7 ♯Fm7 Fm7 Em7|

A(7)     |D△7 (♯Fm/♯C) ♯F(7)     |

G△7 A D△7

ブリッジ
D△7 C△7 G△7 (※繰り返し)

D△7 Bm7 G△7 D△

まとめ


今回クローズアップした『Ⅲ7』のような聴き慣れたサウンド、手癖でついやってしまうサウンドも、その構造を知れば、きちんと効果を狙い、様々なシチュエーションで使いまわす事が出来るというシンプルな好例の一つではないかと思います。

他の部分にも振れておくと、ブリッジ部分の進行はビートルズの『hey jude』と同じで、ロック〜フォークにおけるビートルズからの影響の大きさを伺わせます。このC△7もダイアトニック外のコードですので、これまたちょっとしたスパイスになっています。 

 他にも、イントロ部分のD△7弾きつつのAマイナーペンタトニックが印象的なリフも面白いところなのですが、今回はとりあえずこの辺で!

※補足:Ⅲm7は平行ナチュラルマイナー上のⅤm7。その平行マイナーをハーモニック、メロディックマイナーとした時のⅤ7となる。

テキスト:yuichi NAGAO
耳コピ&分析協力:菅野寿夫


〈作曲〉
Kikuchi Naruyoshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の構造を支える『音楽理論』をゼロから学ぶ講座です。魅力的なコード進行が、どのような仕組みで作られているのか?ポップスからジャズやボサノバまで、複雑な響きを持つ音楽の構造を読み解き、使いこなすためのスキルを身につけます。

Takayama Hiroshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の魅力の源泉ともいえる『メロディ』を作る技術を学ぶ講座です。才能や偶然で済まされがちなメロディの作り方を体系立てて学び、曲作りのスキルを多面的に身に付けます。短いフレーズをつくることから始め、オリジナル楽曲を仕上げていきます。

hosoma

▷授業日:毎月1回開催・全10回
この講座では、普段の『ことば』がおしゃべりを離れ、『歌』になっていくための様々な仕組みを扱います。白紙から歌を作るのではなく、わたしたちが普段用いていることばに埋め込まれた歌の可能性を掘り出していきます。わたしたちは歌を、今よりももっと自由に捉え直すことができるでしょう。