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講座レポート「シルクスクリーン工房」

講座レポート「シルクスクリーン工房」


 

確かな技術が、あらゆる表現を生む

シルクスクリーン工房

文・写真=木村奈緒


 

アンディ・ウォーホル、オリジナルプリントのTシャツ、横尾忠則、トートバッグ……これらに共通するキーワードがある。答えは「シルクスクリーン(プリント)」。絵筆で描いたタッチとは異なる、鮮やかな色彩が印象的な版画技法のひとつである。実際にシルクスクリーンをやったことはなくても、一度くらいは耳にしたことのある人が多いのではないだろうか。

美学校のシルクスクリーン工房は、1970年から続く歴史ある工房だ。初代講師の岡部徳三氏は、日本のシルクスクリーンの草分け的存在で、草間彌生、靉嘔、ナム・ジュン・パイク等の版画作品は、岡部氏の手によって生み出されてきた。現在、シルクスクリーン工房の講師を務める松村宏さんは、78〜79年に美学校シルクスクリーン工房で岡部氏に師事し、その後自身の工房「久利屋グラフィック」を設立。現代美術家・大竹伸朗氏の作品を手がけるなど、第一線のプリンターとして今も腕を磨き続けている。

ただ、この45年の間に時代は変化し「プリント」の概念もまた変化した。変化の只中にあって、シルクスクリーン工房とそこで制作する人たちは、何を見据えて制作を続けるのか。その答えを探るべく、工房を訪れた。

 

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講座開始前の一コマ。まずは「刷る」ための道具を準備するところから始める

 

シルクスクリーンプリントとは

工房の紹介をする前に、そもそもシルクスクリーンとは何ぞや?という方のために、まずはその技法について簡単に説明したい。

木版画が木版を、銅版画が銅版を用いるように、シルクスクリーンは、アルミなどの枠にテトロンと呼ばれる化学繊維の沙を張り、版として用いる。かつては化学繊維ではなくシルク(絹)を用いていたために「シルクスクリーン」という名称で親しまれてきた。インクが網目(版)を通過することで、紙に色が定着する仕組みだ。

シルクスクリーンの特徴は、他の版と違って刷り上がりが反転しない。印刷物が平面であれば、どんな素材にも刷ることができる(水以外であれば何にでも刷れると言われるほど!)。製版方法によっては、写真や活字など基本的にどんな図像も刷ることができる。インクを圧着させるのではなく、版を通過させてインクを紙に定着させるため、インクの厚みが生かされて色鮮やかな刷り上がりになる……などなど。「版画」という枠にとらわれない幅広い表現が可能な技術なのである。

 

シルクスクリーンの制作工程

次に、実際の工程を見ていきたい。シルクスクリーンに限らずすべての版画に共通することだが、図案を刷る(プリントする)ためには、何はともあれ「版」が必要だ。版の作成には「直接法」「間接法」「写真製版法」と複数の技法があり、シルクスクリーン工房では最も一般的な「写真製版法」を採用している(カリキュラムの中で、写真製版法以外も学ぶ)。

写真製版法とは、その名の通り写真現像の技術を応用したもので、スクリーンを紫外線露光させて絵柄を焼き付ける。版の制作〜刷りまでは、以下の3工程に大別される。

①ポジフィルムをつくる(下絵、色数・版数を決める、下絵をトレース、ポジフィルムを作る)
②版をつくる(感光乳剤の塗布、紫外線露光、現像)
③刷る
※ポジとは紫外線を遮る部分のこと。写真製版法では、ポジの部分がインクを通す。

 

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紫外線を100%カットするアンバーフィルムを、下絵をトレースしたフィルムに重ね、絵柄に沿ってカットする。
赤い部分がカットされて残ったアンバーフィルム

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感光乳剤を塗布して膜面をつくったスクリーンにポジフィルムを密着させた後、写真の感光装置で紫外線露光させる

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出来上がった版。露光後に水洗いすることで紫外線を遮光した部分の膜面が流れ落ち、スクリーンが抜ける

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シルクスクリーン工房では油性インクを使用。
最近では匂いの少ない水性インクを使用するところも多いが、油性の方が色のバリエーションが豊富

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その日の気温や湿度に合わせて粘度を、仕上がりのイメージに合わせて色を調整する

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スキージを用いて均一に力を入れて刷る。体重のかけ方が重要

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一枚目と二枚目の版がずれていないか確認

 

実際は上記の工程すべてにおいて、さらに細かい工程があり、これだけの工程を経てようやく一枚の絵が完成する。

 

シルクスクリーンであらゆる表現を可能に

このように、初年度は2〜3ヶ月かけてひとつの課題に取り組む。課題にはそれぞれ狙いがあり、課題作品を完成させることで、技術が身につくカリキュラムになっている。逆に言えば、1年で技術が身につくので、2年目以降も受講を続ける場合は、工房を自由に使いながら自分の作品制作に打ち込めることになる。

受講生の受講理由はさまざまで、それこそ「アンディ・ウォーホルの作品が好きで」という人もいれば、「好きなファッションブランドが、シルクスクリーンプリントで洋服を作っていて」という人もいる。だけど、講座では、作りたいものを作ることより、技術を身に付けることに重きをおいている。つまり、「オリジナルのTシャツを作るため」に「シルクスクリーンプリントを用いる」のではなく、「シルクスクリーンを用い」て「あらゆる表現を可能にすること」を目的としているのである。

シルクスクリーン工房で初めて「モノをつくる」ことに携わったという平澤さんは、昨年一年間の講座を振り返ってこう話す。

「シルクスクリーンの技法を身につけるたびに、新たな自分を発見する感じでした。シルクスクリーンという“手段“を手に入れたことで、これからも作品を作り続けたいという気持ちになりました」

 

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平澤さんの課題作品。デカルコマニーという手法を用いた

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平澤さんの作品(部分)

 

これからのシルクスクリーン

しかしながら、時代の変化には逆らえず、松村さんが受講生として通っていた70年台当時と比べると、受講生は格段に減った。当時はシルクスクリーン全盛期だったとは言え、現在はプリンターという職業を志す人が激減していると言わざるを得ない。

そうであれば、オリジナルプリントのTシャツやトートバッグを作るカリキュラムに変更した方が、受講生は集まるかもしれない。現に、シルクスクリーンでオリジナルグッズを作るワークショップなどは巷に数多く存在する。それでも、美学校シルクスクリーン工房があくまでベーシックな技術の獲得に重きを置くのは、確かな技術こそがあらゆる表現を可能にするという、岡部さんの代から続く確信があるからだ。

「シルクスクリーンという技術をもって他のことにも展開できるようになってほしい。表現したいものをイメージ通りに仕上げる、フィニッシュに向かう構成力を養いたいんです」(松村さん)

 

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色彩の組み合わせや図案を考える作業はデザインワークにつながるし、感光剤の研究などは写真知識の獲得にもつながる。気温や湿度を感じながらインクの粘度を調整する作業は、自身の感覚を研ぎ澄ますことにもつながるだろう。

印刷技術の発達で、銅版画やリトグラフが複製技術から美術作品に変化していったように、シルクスクリーンも過渡期にあると、松村さんは言う。版画技術、表現手法としてのシルクスクリーンをどのように発展させるか、シルクスクリーンの技術を用いてどんな表現をするかは、未知の可能性にあふれているし、これからシルクスクリーンを学ぶ人たちの手に委ねられていると言ってよい。

なぜ、今シルクスクリーンを学ぶのか?それは、シルクスクリーンという技法がまだ見ぬ表現を可能にしてくれるからであり、シルクスクリーン自体がまだまだ変化の可能性に満ちた技法であるからだ。工房を訪れて、黙々と制作する受講生たちの背中から、私はそんな答えを感じ取った。あらゆる表現の可能性に満ちたシルクスクリーンは、たぶん、いや、絶対に面白い。

 

 

Matsumura Hiroshi

▷授業日:毎週月曜日 13:00〜17:00
カリキュラムは非常に厳しく設定してあります。1年目では困難だがまずは基本的なトレーニングから始める。同時に意図した色が確実に定着出来るメリットを生かして色彩研究にも取り組みます。

 

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。
過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108