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講座レポート「超・日本画ゼミ(実践と探求)」

講座レポート「超・日本画ゼミ(実践と探求)」


 

超えるためには深く潜れ

ー超・日本画ゼミ(実践と探求)

文=木村奈緒 写真=木村奈緒・皆藤将


老いも若きも、公務員もフリーターも、異なるバックグラウンドを持つ人が集まるのが美学校の魅力のひとつだ。美学校はまるで社会の縮図だと言う人もいる。ただ、やはり講座ごとに多少のカラーもしくは傾向はあって、例えば芸術家集団Chim↑Pomのリーダー卯城竜太が講師を務める「天才ハイスクール!!!!」(今期で終了)には野心に燃える若者が多く集まるし、グラフィックデザイナー大原大次郎の「デザインソングブックス」には絵画コースとは違った空気が流れている。

一方、2012年に開講した間島秀徳による「超・日本画ゼミ」には、決まったカラーがない。教場では、プロのアートディレクターと美大生が肩を並べ、職業も年代もバラバラな受講生がともに学んでいる。ひとつだけ受講生に共通しているのは、絵に向かう姿勢、「絵画とは何か」を追い求める「探求」の姿勢だ。 「日本画を学ぶということは、素材や技法を習得することに留まらず、絵画原理を探求することです」と講座紹介文にある通り、絵画について深く掘り下げる受講生の眼差しは一様に真剣である。日本画とは?絵画原理とは?それらを探求した後に、一体なにを「超」えるのか?日々「実践と探求」が繰り返される教場に足を踏み入れた。

 

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デッサン大会だった取材当日。全員が交代でモデルを務める。

 

「日本画」とは?

「【油絵の具を用いた洋画に対して】岩絵の具などを用いた、日本独特の技法・様式をもった絵」(新明解国語辞典 第七版)。これが辞書における日本画の定義だ。人によっては、「花鳥風月」などのモチーフが描かれたものを日本画として思い浮かべるだろうか。画壇、公募展……「日本画」という言葉から連想されるものが何にせよ、人それぞれの「日本画」があるだろう。

「超・日本画ゼミ」では、こうした自身の「日本画」に対するイメージをも掘り下げる。「『日本画は高価な岩絵の具を使って描いているから良い作品』という見方をしがちですが、素材の美しさに溺れずに作品を読み取る力も身につけてほしいですね。」と間島さん。「岩絵の具というのは物質感があって、そのままでもきれいなんです。日本画家の中には、素材がああだこうだと材料の話ばかりしている人がいますが、それは作品のアイディアとは何も関係ないですからね。」「カルチャーセンターでは、材料をひと通り揃えて、それを使いこなしてきれいな日本画を描くことに主眼をおいているのでしょうが、絵画原理を突き詰めれば、道具をひと通り揃えなくても、むしろ使わなくても日本画は描けます。」

 

「絵画原理」とは?

「絵画原理を探求すること」が「日本画を学ぶこと」だとすれば、気なるのは「絵画原理」とは何か、ということだ。間島さん曰く「絵画原理とは、技法とか素材とかより、もう少し本質的なこと」だそう。どういうことだろうか?「例えば、油画のキャンバス/日本画の和紙ということよりも、『支持体』とはどういうものであるか、そこにどう描くかを考えるんです。そうすると、油画/日本画という差異を超えて共通したものがある。どういうものが絵の土台に良いかというテーマは、油画/日本画といったジャンルを超えて考えていかなければならないと言いますか。」
つまりは、「日本画的なものを使いこなせる日本画家になりましょう、という講座ではない」から、入り口が日本画であったとしても、結果的に他のメディア(媒体)で表現しても構わないそう。絵画原理を追求しながら自分の表現を探すのが、本講座の醍醐味だ。

 

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それぞれ好きな画材を用いてデッサン

 

実践「絵画原理」の探求

では、講座では「絵画原理」をどのように探求しているのだろうか。実践の方法はこうだ。ある時は、徒歩圏内の東京都近代美術館やギャラリーに足を運び、生の作品に触れる。ある時は植物園に出かけ、作品のモチーフとなる植物を観察する。またある時は、指定図書について意見を交わす連続読書会を行う。日本画に関する書籍を読むだけではなく、文中で紹介された図版のデータを受講生が集め、視覚化して検証したりもする。いずれの授業も、少人数制の「ゼミ」だからできる内容だ。一学年数十人の美大で同様の講座を行うのは難しいと間島さんは言う。

見たり読んだりするだけではなく、もちろん描く。取材当日はデッサン大会だった。受講生が順番にモデルになり好きなポーズをとる。残りの受講生は好きな画材でデッサンをする。ただひたすらそれだけなのだが、出来上がったデッサンは三者三様だ。「どこを見るかは人によって違うじゃないですか。中には肌の質感がすごく気になる人もいる。それで良いと思うんですよね。正確なデッサンというより、もっと感覚的でいい。そうすると、人の作品を見た時に『この人は冷めて作品を作っているから写真を見て描いているな』といったことが分かってくるんです。対象を正確に写しとるよりも、描く前後に感じることの方が大事かもしれませんね。」

 

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筆の動かし方を学ぶために、清の時代などのお手本を真似て描くことも

 

全てを超える「超・日本画ゼミ」

これまで紹介してきたことからも分かるように、「超・日本画ゼミ」は今までの日本画からは想像がつかない突拍子もないことをするという意味で「超」なのではない。むしろ、課題制作に集中しがちな美大では見逃されている「絵画原理」について地道に掘り下げていくことを重視している。大きくジャンプをするためには、その前に強い踏み込みが必要というわけだ。「ただ勝手に描けば良いのではなく、今まであるものを観たり勉強したりしたうえで自分の表現を考える。それが『超』につながっていくということですね。」

講座紹介文の最後にはこうある。

“超・日本画ゼミでは、今の時代を作家として生き抜くために、あえて超という言葉をつけました”

「今、画壇は崩れつつあります。これからは画壇に入っているからといって特別扱いされないでしょう。だけど、団体展は全国を巡回するんです。つまり露出度はある。だから、むしろそれを利用するくらいのつもりでやっても良いんですよ。」「受講している間は、忙しい一年になることは覚悟して、ちょっと無理をしてでも自宅でも描いてほしいですね。展覧会をやる人はどんどんやった方がいい。展覧会の方法も自ら考えて、自分で道を切り開いていけるような作家になれたらいいですね。」

超・日本画ゼミ」は、受講生の肩書や年代を「超」え、油画と日本画の違いを「超」えて、日本画を入り口として「描く」ことを徹底的に探求する。そうすることが、これまでの制作・展示手法、作家としてのあり方を「超」えることに繋がるのだ。決してたやすいことではないと思うが、受講生のやる気次第では、従来の日本画や作家像を「超」えることも可能かもしれない。忙しい、お金がないなどの障害は「超」越して受講しにきてほしい。

 

 

Majima Hidenori

▷授業日:毎週土曜日18:30〜21:30(毎月第三週は日曜日13:00〜17:00)
本講座では自立した作家として歩み出せるように、制作実践のための可能性を探究し続けます。内容は基礎素材論に始まり、絵画制作に必要な準備の方法を習得するために、古典から現代までの作品研究等をゼミ形式で随時開催します。

 

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108