Menu

Home
講座レポート「スクラッチビルダー養成講座『フィギュア/デザイン』」

講座レポート「スクラッチビルダー養成講座『フィギュア/デザイン』」


 

唯一にして最強の講座

―スクラッチビルダー養成講座「フィギュア/デザイン」

文・写真=木村奈緒


※このレポートは、正規講座として年間27回開催していた時のものです。特別講座として開催される2016年度の授業とは異なる場合があります。

 

スクラッチビルダー養成講座「フィギュア/デザイン」は、美学校でしか受けられない講座だ。それは、講師のメチクロ氏が美学校でしか講師をしていないという単純な理由によるものではない。美大などのアカデミックな場ではなく、職人の現場で技術を身につけたメチクロ氏。ゆえに、そのメソッドは独自のもので、一般の教則本の内容とは異なる。そういう意味で、美学校でしか受けられない授業なのだ。

作るものがアクセサリーだろうが、現代美術作品だろうが、「ものを作る」ということに変わりはない。実は、スクラッチビルダー養成講座は、美学校で唯一、立体造形に特化した講座。フィギュア作りは興味がないという人も、まずは記事を読んでみてほしい。

 

「スクラッチビルド」とは?

レゴ、プラモデル、フィギュア。いずれも最終的に何かの形をつくる「構築物」であることに変わりはない。しかし、その構築方法はそれぞれ異なる。「限定されたフォーマットを組み合わせて形にする」レゴ。「順番通りに組み立てて完成させる」プラモデル。

「そこから先は、自分の工夫がいる構築物になります。既存のプラモデルを改造して違う形をつくる。つまり、あらかじめ存在するベースをもとに、オリジナルのものをつくること。それをホビーの世界では〈セミスクラッチビルド〉といいます。そして、既存の形が全くない状態から形を作ることを〈フルスクラッチビルド〉と言って、おそらく一番難しいとされている技術です。」この、「一番難しい」フルスクラッチビルドを実践しているのが、本講座である。(「 」内はいずれもメチクロ氏による解説。)

 

figure01

受講生の初作品。
受講生曰く「『戦場のメリークリスマス』のビートたけしを目指した」とのこと。

 

特徴その1:明確な目標設定に基づくカリキュラム

「一番難しい」フルスクラッチビルドを一年で習得するのが容易ではないことは、フィギュア製作未経験者でも分かることだ。講師のメチクロ氏もこう述べる。「一年間、それも1回3時間の授業を月に4回でやれることなんて、たかが知れているんですよ。本当に造形作品を作ろうとすると、一つの作品に200〜300時間かかるんですね。そういうものをゴールに設定してしまうと、100%達成できない人しか生まれません。そこで、どういう目的で受講しても、持ち帰ってもらえるものを考えてカリキュラムを組んでいます。」明確な目標設定のもとに組まれたカリキュラム。これがスクラッチビルダー養成講座の第一の特徴だ。

 

特徴その2:3次元的視点が身につく立体デッサン

毎年決まって最初にやるのは、「人物の顔を骨から作る」こと。と言ってもいきなり頭蓋骨を作るのではない。「まずは、何も見ないで頭蓋骨を描いてみてと言うんです。」入学試験のない美学校は美大と違い、入校にあたってデッサン力が問われない。必然、絵が上手い人もいれば下手な人もいる。「丸ふたつと線。頭の中の頭蓋骨の情報ってそれくらいなんですよね。」最初からリアルな頭蓋骨は描けなくて良い。

次に、解剖図などの絵と自分の絵を見比べてから、再度資料を見ないで頭蓋骨を描く。「そうすると、歯があるとか、鼻の穴があるとか、だんだん本物の頭蓋骨に近づいてくるんです。」最終的には資料を見ながらで良いので、頭蓋骨の三面図を描く。「造形物は3次元の立体物なので、正面と側面、上下どちらかがあれば全体像が分かるんですね。そういう図面を作っておけば、制作中の立体物を色んな角度で見比べながら作れるんです。」

 

figure02

立体デッサンの参考にする図版。この工程で、3次元的な感覚を養う。

 

そうして出来上がった図面をもとに骨格を作ったら、後はその上に肉付けしていけば良い。「人間の顔を最初から上手に作ろうとすると、先入観とか手癖が入ってしまいます。骨から作ると人体の構造や、筋肉がついている場所が分かるんですね。〈立体デッサン〉と称してこの工程を毎年やっています。」「絵が描けるかどうかは関係なくて、立体デッサンを一度やれば絵が上手くなります。物を3次元的に見る視点が得られるんですね。」 石膏像の模写ではない、立体デッサン。これが、他校では受けられないスクラッチビルダー養成講座の第二の特徴だ。

 

figure03

人体の頭部が出来上がるまでの工程。
頭蓋骨を作った後、それを型取りし、型どったものに肉付けしていく。
デッサンをしながら型取りの工程も覚えられる。

 

特徴その3:表現としてのフィギュアを作る

受講生全員が「基本的な粘土の使い方、立体デッサン、人体の顔作り、型取り」を身につけた後は、オリジナル造形のカリキュラムか、さらに立体的視野を育てるためのカリキュラムに進む。どちらに進むかは年度によって異なるそう。取材時は、オリジナル造形の製作段階に入ったところだった。

オリジナル造形では、当然自分の好きなものを作って構わない。「ただ、好きなものを作る前に、取り入れた工程があります。世の中、社会、あるいは誰か一人の人でも良いのですが、伝えたい対象を設定してから作ってもらうんです。」「表現をするための彫刻なのか、自分の欲求を満たすための彫刻なのかで、完成までの心の置きどころが変わってくるんですね。作品を完成させたことがない人は、どこを完成とするか自分で判断する基準を持っていない。〈誰に伝えるか〉という設定さえしてあれば、リアルであるかどうかは関係なく完成と言える基準が生まれます。」

 

figure04

受講生のひとりのオリジナル造形は「エイリアン」
まずは、人体の背骨にあたる部分を針金でつくる。

 

「どちらかと言うと、自分の欲求を満たすための彫刻ではなく、表現をするための彫刻をしてほしい」と言うメチクロ氏は、「表現すること」についてこう述べている。「表現は自転車と一緒で、自転車を一生懸命乗ろうとしているうちは、『こういう風に走ってみよう』とか考えられませんよね。だけど、自転車に乗っていることを忘れるくらい技術が高まると、そこではじめて自転車に対して表現できるようになるでしょう。走り方を変えてみよう、とかね。だから、自分がアートについてひとつだけ教えられることがあるとすれば、超基礎の技術といった基本的なことになりますね。」

メチクロ氏が言うように、一年間で学べることは決して多くない。身につけられるのは基本的な技術くらいだ。しかし、基礎なしには表現するところまで至らない。さらには、表現したものをどう完成に導くか。これらは、いずれもスクラッチビルダー養成講座のカリキュラムを通して体得できる。ちなみに、絵がうまくなる立体デッサンは、造形をしたい人だけでなく、イラストや漫画を描きたい人にも最適だし、シリコン型などによる複製技術が身につけられるから、アクセサリーを作りたい人にも応用が効く。つまり、スクラッチビルダー養成講座「フィギュア/デザイン」は唯一にして最強の講座なのである。

 

 

メチクロ

▷授業日:日曜日(年間6回)13:00〜18:00
現代的な劇作表現として独自に進化を続ける「フィギュア/デザイン」の世界をより実践的なカリキュラムに沿って学習する…「立体デッサン」を基礎技術とし、自由な世界観を構築する為の考え方やコツを講義。

 

 

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。
過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108