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講座レポート「実作講座『演劇 似て非なるもの』」

講座レポート「実作講座『演劇 似て非なるもの』」


 

曖昧な場所から生まれる「まだ観ぬ演劇」

―実作講座「演劇 似て非なるもの」

文=木村奈緒 写真=皆藤将


 

「演劇」と一口に言っても、下北沢の劇場でやる演劇もあれば、何百人も入る国立の劇場でやる演劇もある。最近では、廃校になった校舎を利用した演劇もあるし、野外劇なるものもある。 そう考えると、演劇はひとつの枠に収まらない自由な表現のように思えるが、一方で、下北沢で観る演劇も、野外で観る演劇も、私たちが知っている「演劇」の二文字にくくられてしまうことも、また確かである。

ただ、何千何万という演劇作品の中には、「これって演劇?」と疑問に思うものがあるはずで、美学校の「実作講座『演劇 似て非なるもの』」は、そんな疑問を喚起する作品を生み出すことを目指しているのかもしれない。なお、あなたが「これって演劇?」と思うと同時に、「こんなのは演劇じゃない」と思ったならば、それは自ら演劇というジャンルの可能性をつぶしてしまっていることになる。なぜなら、演劇の可能性を示してくれるのは、「まだ観ぬ演劇」なのかもしれないのだからー。

 

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講座風景。ここから「まだ観ぬ演劇」が生まれてくるのかもしれない。

 

「まだ観ぬ演劇」の模索

新薬の発明や、新技術の開発がクローズドな環境で行われるように、「まだ観ぬ演劇」の模索も、講師と受講生の間で密かに行われている。本講座は基本的には、受講生以外の聴講・見学を受け付けていない。
その理由を、講師の生西康典さんは「その場に誰かひとり加わるだけで、場の空気が変わるじゃないですか。集中したいんです。」と話す。
なるほど、「まだ観ぬ演劇」は一朝一夕に出来るものではなく、一年間同じメンツで相対することでしか生まれてこないのかもしれない。

 

部分取材だけでは……

とは言っても、生西さんも受講生の方々も、授業外であれば、気さくに話しをしてくれる。取材当日も、講座が始まる前に話しを聞かせてもらえた。

この日は、夏休み明け最初の講座。受講生は、夏休み中に書いた台本や公演プランを持参。三者三様の案に生西さんも「嬉しくなってきた」と喜んでいる。ちなみに、公演プランは、夏休み前に行った公演候補地の下見をもとに作成したそうだが、肝心の候補地については、当然「秘密」。約一時間の取材で、講座の輪郭に触れられたような気もしたが、核心には触れられぬまま、「毎回どんな内容の講座なのか」「まだ観ぬ演劇ってなんなのか」という疑問が残った。

 

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受講生が書いてきた脚本を読む生西さん。

 

明かされた「秘密」

さすがに講座の核心に触れられぬまま、訳知り顔で講座レポートを書くわけにはいかず、取材から少し間を置いた2014年12月25日、現役生による一日限りの公演『薔薇のてがみ』を観に行った。

各回定員10名という超限定公演(公演は全部で3回公演)の会場は、四谷三丁目の小さな「文化サロン」綜合藝術茶房 喫茶茶会記。路地を入った場所にひっそりと佇む店内に足を踏み入れると、そこは紛れも無く喫茶店、もしくは雰囲気のあるバー。いわゆる役者が立つ舞台はなく、観客はカウンターに向き合う形で並べられたイスに腰掛ける。観客というより、珈琲やお酒を嗜みに立ち寄ったお客さん、といった風情だ。早くも、演者と観客、客席と舞台といった「演劇」の概念が曖昧になっていく。

公演内容についてここで詳しく書くことは避けるが、個人的な感想を述べるならば、「演劇を観劇した」というより、「特別な時間を共有した」という感覚の方が強かった。今回の公演には、その場に居合わせた人たちの、極私的な感情を引き出す「仕掛け」があり、「観客だから」とぼんやりしていられない緊張感があったことも新鮮だった。

今回の公演が果たして「まだ観ぬ演劇」だったかどうか、観る人によって判断は異なるだろうが、少なくとも皆が知っている「演劇」の焼き直しではなかったように思う。「まだ観ぬ演劇」へのチャレンジングな姿勢が感じられる、刺激的な公演だった。

 

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公演のフライヤー。
フライヤーも演劇の一部になっている。

 

「まだ観ぬ◯◯」

演劇であれ、美術であれ、これまでに観たことがないものを生み出すのは、容易なことではないだろう。例え生み出せたとしても、「前例がない」「観たことがない」「判断基準がない」という理由で、賞賛されるどころか、バッシングされたり、無視されたりすることの方が多いかもしれない。

さらに、恐ろしいのは、過去の何かに似ても似つかないものは認められないということ。 こんなの「演劇」(「音楽」「映画」「小説」「漫画」「美術」)じゃない!とか言われて。(講座紹介文より抜粋)

そんな時、自分一人であれば挫けてしまうかもしれない。だけど、「実作講座『演劇 似て非なるもの』」であれば、生西さんや受講生がいる。「仲間」と言うと安易に過ぎるが、受講生の経歴や年齢を始めとし、あらゆることの境界が曖昧な美学校という場所は、「まだ観ぬ何か」を生み出すのには最適な場所なのかもしれない。

「まだ観ぬ演劇」に前例やお手本はない。「演劇の可能性ってこんなもんじゃないんじゃないか」と思っている人がいたならば、生西さんや受講生とともに、手探りで実作することから始めてみてはいかがだろうか。「自分達で作ってみる」以外に、まだ観ぬ演劇に出会うことは出来ないのだから。

 

 

▷授業日:毎週金曜日 19:30〜22:30
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。

 

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。
過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108