「映像表現の可能性」(現「芸術漂流教室」)講師×修了生による座談会



クラス内コンペ、砂浜で落語…充実の夏合宿

――前田さんは印象に残っている授業はありますか?

前田 本当に授業が三者三様だったので、何かひとつ選ぶことは難しいんですが、生徒の中ではバランスがとれていて面白かったです。

阿部 それぞれ、課題は出ていたでしょ?

前田 出ていました。阿部さんなら、自分と同じ誕生日の人を調べて発表するとか。迅さんは、作品制作の課題を毎回出していましたよね。

倉重 作る習慣を身につけてもらうために、課題はほぼ毎回出していました。最初のうちは、テーマや尺、作り方といった条件を多目に出すんですが、どんどん条件を少なくしていくんです。僕は作品制作の課題が多いけど、偉一郎くんは自由研究みたいな課題が多いよね。

田中 作品になるかわからないけど、「こういうことやってみたい」的な内容が多いかもしれない。特に映像を扱うとなると、夜に集まって3時間の授業でできることは限られているので。例えば、自分の身の回りでいちばん不必要だと思うものをモチーフに、そこからテーマを見つけてみるとか。ひとつ好きなものを挙げて、それを本にすると、映像にすると、絵にすると、写真にすると……と、あらゆる媒体に当てはめてみるとどうなるかを考えてみたりもします。

前田 ワークショップで学んだ思考回路を使って課題を作るというのもやりました。あと、大喜利課題も多かった。

田中 アート大喜利も必ずやったよね。なかなか面白い発想が飛び出すし、僕自身も楽しんでるんで。

倉重 そういえば、雛子は砂浜で落語してたよね。

長田 あれは罰ゲームです(笑)。

――なんの罰ゲームですか?

長田 夏休みの合宿で、作った人の名前を伏せてレモスコープ(※6)のコンペをやったんです。阿部さんが審査員になって順位を決めたんですが、私がビリだった。最下位3名は何かするということで、それぞれ一発芸みたいなものをやらされたんです。それで、私はうろ覚えの「芝浜」を鎌倉の砂浜でやりました。

田中 マジでやってるから映像を撮ったんだけど、波の音と風の音でなんにも聞こえないの(笑)。

――合宿は楽しみつつ、即興で作品を作るといった感じですか?

田中 レモスコープのクラス内コンペは、合宿に行ったら毎年必ずやりますね。いつもは夜に集まっているけど、合宿のときは昼間に全員集まれて、映像も撮れて、審査もできるんです。長い時間をかけてできる点で、普段の講座とは違います。

倉重 安いところに泊まるから、1、2万円でも充実していると思います。

阿部 合宿の頃までに、わりと気心が知れるからね。そのための仕掛けの授業もしているので、この人はこういうタイプなんだなとか、こういうことに興味があるんだなとか、夏までにおおよそわかる。だから、合宿の前からみんな仲がいいですよね。べつに、仲が悪くてもいいんだけど(笑)。

倉重 やめる人は合宿前にやめちゃうからね。

田中 合宿までもてば、やめないっていうことだね。

一同 (笑)。

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講師は三者三様で「すごく贅沢な授業」

倉重 雛子は、周りの人に勧められてこのクラスに来たけど、逆に自分は人に勧める? 勧めたことある?

長田 私は美大にいて、すでにみんな作れる環境にいるので、わざわざ勧める感じではないかもしれません。でも、「作りたいけど、どうしたらいいかわからない」という人がいたら勧めますね。

――佐久間くんは受講してみてどうでしたか?

佐久間 楽しかったです。俺、受講しはじめたとき、カメラを持ってなかったんですよ。だけど、iPhoneで気軽に撮った映像でも真剣に講評してくれるんです。画質や機材じゃなくて、撮られたモノ・コト自体を見てくれるので、ありがたかったですね。カメラを持っていない人でも受講できて、真剣に講評してもらえる。そこがこの講座のすごくいいところだと思います。

田中 佐久間は、最初の頃はカメラがないからって言って、あんまり映像作らなかったよね。

倉重 絵を描いてたね。

佐久間 頭の使い方とか、発想の仕方を教えてもらっていましたね。入ったばかりの頃は、テレビ的な視点で映像を捉えていたから、映像の綺麗さや、デザイン、ビジュアルを重視していました。だけど、みんなが作ってくる作品は、実験段階だったり、コンセプト重視だったりして、先生も内容を評価してくれる。美大だったら、ある程度のクオリティが求められると思うんですけど、アイディアになる前段階のものを講評してくれて、「こうしたらもっとよくなるんじゃないか」と、みんなでディスカッションできる。そうすることで作品がよりよくなるのは、すごくいいことだと思いました。

――それが「ボムライ(BOMBRAI)TV」にも生きていると。

佐久間 そうですね。「ボムライ(BOMBRAI)TV」のコーナーは、レモスコープですからね(笑)。習ったことを生かしています。阿部さんの授業で教えてもらったアーティストの作品をもとに、新しいアイディアが浮かんだりもしますし、ディスカッションは毎回すごく有意義でした。

阿部 しかも、みんなまったく違うことを言うからね。

前田 そう、一人の先生の意見に凝り固まらなくていいのは、すごくよかったと思います。みんなの意見がぜんぜん違うので、最終的にいろんな人の意見を複合して、じゃあ自分はこうかなと考えられるのがよかったです。

佐久間 先生もワークショップに参加するので、僕らも先生に意見できるんですよ。他の学校だったら先生は見るだけのところが多いと思うんですけど、映像クラスは先生も受講生も一緒に参加するので。

倉重 先生って言っても大したことないしね。僕も偉一郎くんも、「俺の背中を見ろ」みたいなタイプではないですから。

田中 もともと美術には「捨てる神あれば拾う神あり」みたいな側面があるからね。こっちではダメって言われたけど、こっちでは評価されたとか。そういうことが自然とできる環境ではありますね。

阿部 実際にそういうことがしょっちゅう起こっているんですよ。俺が「何を言いたいのかわからない」と言った作品が偉一郎さんに褒められてたとか、「こういう方向性にしたら?」と提案したら「迅さんに逆のこと言われました」なんてこともある(笑)。

――いい授業じゃないですか。

一同 (笑)。

長田 すごく贅沢な授業だと思います。

(※6)レモスコープ
「無加工/無編集/最長1分/固定カメラ/無音/ズーム無し」の6つの条件に則って制作された映像作品のこと。(参照元:http://www.remo.or.jp/ja/2005/0304-112.html