Menu

Home
講座レポート「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」

講座レポート「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」


 

まずはやってみてよく考える。そうして見えてくる自分だけの道

―ビジュアル・コミュニケーション・ラボ

写真・文=木村奈緒


 

もし、美学校のHPを見たことがない人がいたら試しに講座紹介を見てみてほしい。そこでは約30の講座が紹介されているが、他の美大や専門学校では見かけない名前の講座も多い。「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」も、一見してその授業内容が想像できない 講座かもしれない。横文字が並ぶ本講座で一体どんな授業が行われているのか?
夏休み前最後の授業のこの日、夕方になっても暑さのひかない教室にお邪魔してきた。

 

VCL01

ゆったりとした雰囲気の教室。皆それぞれの作業を進めている。

 

やってみて、考える

教室に入ったとき、ある受講生はiPadで先生に教えてもらった作家の作品をチェックしていた。また別の受講生は机いっぱいに黒いビニール袋、デジタル時計、チューブといった材料を広げて何やら試行錯誤をしている。講師の斎藤美奈子先生はと言えば、夏休みの間受講生に貸すというフィルムカメラの手入れをしていた。皆、思い思いの作業をしている。今日は何の授業かという問いには、先生も受講生も顔を見合わせて「何の授業っていうわけじゃ…」との答え。一見自習と変わらない授業に見えるが、先生の一言で単なる自習ではないことに気がつく。

「これ、身長より小さく見えない?」
受講生が作った細いチューブの輪っかを手に取りながら、先生は受講生に尋ねた。受講生によればチューブは自分の身長と同じ長さだそうが、両端をつなげて輪っかにしたチューブからは確かに「160cm」という長さが感じられない。どうしてだろうと首をひねる受講生に先生はこう続けた。
「でも、これはすごく良いの。作ったから小さいと分かったわけで、その次が問題なの。まずやってみなければ、どう大きくするか、どのくらい大きくするか分からないでしょう。ちょっとやってゼロに戻してこれで終わり、としちゃわないで。何か違うなと思ったら、何が違うんだろう、もう少しこうしたら自分のイメージにピッタリなんじゃないかって、ズレがないように詰めていくことが大事なんだよ」

まず、受講生にやらせてみる。受講生が行き詰まっていれば声をかける。ただ、先生は「白い布の方が良い」とか「もっと太いチューブにしなさい」などといったことは言わない。あくまで自分で考えることの大切さを説く。まず「目に見える形にして」「それを、より明確なものにしていく作業を繰り返す」。講座紹介文にある通り、こうした作業の積み重ねが今後、表現を続ける上での糧になると感じた。

 

VCL02

生徒と一緒に考えながらより良い方法を模索する

 

自分自身を見つめて、次のステップにつなげる

授業終了後、暑い教室を後にして向かったのは宵の口の神保町。この日は夏休み前最後の授業ということもあり、授業後に皆でビールを飲む予定だったそう。まずは乾いた喉をビールで潤し、同席の受講生に受講理由を尋ねてみた。
ある受講生は「色んなことが出来るかなと思って受講しました。今までアートをやったことがなかったから、まずは色々試せるようなところがいいなと思って探していたら、ビビっときたんです。当時は地方にいたので授業見学には行けなかったけど、見に行かなくても大丈夫っていう自信がありました」との答え。一方、もう一人の受講生は何度も授業見学に来て納得した上で受講を決めたそう。そんな二人の真逆の回答を聞いた斉藤先生は、
「面白いよね、色んな人がいて。ただ、集まるのは基本的にはアートとか表現といったものを念頭において先を見ている人たちですね。アートを流行り廃りのファッションとして捉えている人ではなく、自分自身に目を向けている人たち。その分、ひとりひとりのバックグラウンドや目指しているものは全員違います。だから、そこは大事に見ていかなくてはいけないですね」と付け加えた。

美学校は元来、資格取得のための学校でもなければ、卒業したところで卒業証書がもらえるわけでもない。しかし、そうなると気になるのが卒業後の進路。ビジュアル・コミュニケーション・ラボの受講生は皆、作家になっているのだろうか?
「私は、受講生が必ずしも作家にならなきゃいけないとは思っていないんです。ただ、美学校も堅苦しく言えばいわゆる教育機関ではあると思っています。一般的な日本の教育システムからは少し外れたポジションにありますが。だから、美学校にアクセスしたことで、受講生一人ひとりが次のステップに進むための何がしかの足がかりをつかめるといいなと思っています」

何かを作ることは自分一人でも出来るかもしれない。しかし、行き詰まったときに自分一人だと制作を続けるのは難しい。ビジュアル・コミュニケーション・ラボには、道に迷ってしまったとき声をかけてくれる先生がいて、異なる道を歩む受講生たちがいる。そうした環境で試行錯誤するうちに自分の道が見えてくるのではないか。何より、受講生全員の制作状況に目を配り、優しく声をかけてくれる先生の存在は安心感があり心強い。美学校では数少ない女性講師による授業のメリットであるとも感じた。

自分のテーマを掘り下げ、それを目に見える形で「ビジュアル」化する。そうして出来た作品を通して社会や他者と「コミュニケーション」する。そのためにたくさんの実践を積む「ラボ」。それが「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」であると、今回の取材を通じて感じた。作品制作に自信のない人、制作中に道に迷ってしまった人などは、是非一度教室を訪れてみてはいかがだろうか。受講生も先生も暖かく迎えてくれるに違いない。

 

 

VCL03

打上げでリラックスしつつも、カメラの使い方はしっかりレクチャー。

 

Saitoh Minako

▷授業日:毎週火曜日 13:00〜17:00
作品制作を中心に、現代美術に関する講義を交えて進む講座です。制作を通して、美術作家としてのものの捉え方や考え方も学んでいきます。まず、ゆるやかな方向性をもったカリキュラムを用意します。とにかく、何か作ってみる。そこからスタートです。

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。
過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108