特別講義デジタルコンテンツ時代の著作権


これからの創作のために

水野弁護士 今日は場広い分野のお話お疲れさまでした。Creative Commonsの水野と申します。何点か気になった所を補足的に質問したいのですが。

吉田 お、ついに客席の弁護士軍団から突っ込みが入りました(笑)。お願いします。

水野 講義の途中で、BanksyやZEVS、Chim↑Pomの例が、著作権というよりむしろ器物破損なのではないかという話があったかと思います。ZEVSの作品のように、企業のロゴを改変する行為に関して言えば、考え方によっては著作権侵害を問われる可能性はあるでしょう。Chim↑Pomのアートにしても、岡本太郎の作品に彼らの創作を付け加えることが、改変行為であると見なされることも出来ると思うんですね。ただ、少なくともこの件に関しては、著作権違反を問われてはいません。カオス*ラウンジの件に関しても同様に、権利者から著作権侵害を問われている訳ではないけれど、倫理的な観点から炎上騒ぎが起きたりしていました。

「何のために権利の話をするのか?」という事を考えたとき、10年前くらいから話が変わっていないように思うんです。著作権侵害というのは『親告罪』という扱いになっていまして、実は、権利者が文句を言わなければそれでOKという世界なんですね。そこで考えなければいけないのは、『どういう場合に著作権侵害のクレームがきて、どういう場合にはクレームがこないのか?』ということだと思うんです。形式だけをみると著作権を侵害しているケースというのは、実は結構ある。しかし、それが問題なくアート作品や、表現として認められるケースも実際には数多くある訳です。認められるケースと認められないケースとの違いは何なのか、というのは僕たちも考えていかなければいけない所だと思うんです。

齋藤 それは確かにそうですね。BankseyやZEVSの例の場合、彼らはアーティストとして世界的に認知を得ていますよね。彼らの『アート』の対象となった企業は確かに著作権侵害を被ったと言えるのかもしれませんが、その一方で、アートとして社会的に認められた表現でもある訳です。Dommuneの例でもお話した通り、そこまで社会的に認知された存在であれば、訴える側としても、なかなか法的措置はとりにくいでしょう。

水野 これは個人的な見解なんですが、今は権利意識だけが先走っているような気がするんです。大事なのはむしろ、何をアーティストがやりたいのかというパッションやコンセプトの部分だと思います。カオス*ラウンジの例にしても、「それって著作権的に大丈夫なの?」という権利意識にばかりスポットがあたってしまって、肝心の彼らのアート作品そのものを深く問うこと無く、スキャンダラスに語られているという状況がある。彼らがどういう考えでこうした作品を作ったのか、という所にまでなかなか議論が進んでいかないというのは、やはり問題だと思うんです。サンプリングの問題にしても同様ですよね。文化的意義がしっかりあるにも関わらず、権利意識ばかりが取りざたされて、意義あるものが潰されてしまうのは非常に勿体ない。

だから僕がアーティストの方々に言いたいのは、「自分の作品にはこれこれこういう意義があるんだ」という事を声高に叫んで欲しいということなんです。その上で、何か問題が起きたときには、きっと齋藤さんが助けてくれる筈ですから(笑)。

吉田 おー(笑)!!やるならコンセプトと作品を作ることへの愛情を持てということですね。

齋藤 そうですね、アーティストの皆さんは良いものを作って、自分達の意義をきちんとプレゼンして欲しい。そこを法的にどうケア出来るか、というのは弁護士の責任というのは仰る通りです。同じ目線でどのようなサポートが出来るのかというのは重要ではないかと思います。

水野 権利者が侵害に対して主張するか否かという境目に関して言うと、先ほどのJBバンドのドラマーさんの話にもあった通り、権利者がリスペクトされている事を感じられるかどうかというのは凄く重要なポイントだと思うんです。
Creative Commonsの『表示』ライセンスはまさにそうしたリスペクトのためのツールですし、現場の僕たちもそうした意思を大事にしたいと思って働いています。著作権者に対してリスペクトを示すという意識がもっと広がっていくことで、法的に見れば著作権侵害になっているケースでも、著作権者が不快に思う事の無い状況になっていくかもしれない。hard lowではなくsoft lowというんですが、厳密にガチガチに縛るのではなく、人間関係の部分で解決していこうという方向に可能性があるのかなと考えています。

吉田 そういう意味でも、今ではtwitterなどを使ってアーティストの人と直接やり取りする事が容易になっている訳ですしね。梅ラボさんの件に関しても、事前に作った人に一言挨拶しておくだけで、トラブルは避けられたんじゃないかなと思うんですよね。自分自身作り手だから思うんですけど、勝手に二次利用されたらやっぱり嫌ですからね。勝手に写真撮ってブログにアップされたりとか、しかもそれで批難されたら、心情的に腹は立ちます。人間なんで。でも「可愛かったので使わせてもらいました☆」とか一言あると、なら許す!みたいな(一同笑)。

水野 そこ大事ですよね(笑)。

吉田 これからアーティストの作品を二次利用したいときは、やはり先手で本人にお願いしちゃうというのが良いと思いますね!あと、普段からtwitterとかで絡んでおいて「この人はファンなんだ」という信頼関係を築けば、侵害されたという気持ちにはなりにくいのかも。

えーと、今日の私と齋藤さんの結論なんですが、グレーゾーンを如何にごまかすかというか(笑)、人間関係でなんとかしよう!という所に最終的に落ち着きそうなんですけど。インターネットの時代だからこそ、顔の見える人と人のコミュニケーションを大事にしていこう、という良い話にまとめようとしています(笑)。

齋藤 大事ですね。ただ、サンプリング訴訟の難しい所は、ビジネスとして成立してしまっているシビアな部分ですね。サンプリングされそうな古いレコードの権利を買って来てそれをネタに訴える、という権利ビジネスなんです。そうした世界には、アートの意義やリスペクトといった考えが入り込む事が出来ない。こうした問題についても、またお話する機会が持てれば良いかなと思います。

吉田 また是非お願いします!皆さん、今日お話を聞いて、「弁護士って難しそうだけど、話聞いてくれるじゃん!」という事が分かったと思いますので(笑)、是非色々相談してみると良いんじゃないでしょうか。今日は本当に有り難うございました!

齋藤 有り難うございました。