特別講義デジタルコンテンツ時代の著作権


Creative Commonsと音楽のリサイクル

齋藤 続けて、これからの音楽の在り方への問題提起という事で、度々紹介したネットラジオ局のdublabと、Creative Commonsが共同で実施した『into infinity』というプロジェクトについて紹介します。

このプロジェクトは、色々なアーティストに音や映像を提供してもらって、それをリミックスや二次創作のための素材として解放していこうという試みです。アーティストに提供してもらった素材には、それぞれCCライセンスが採用されていて、作品を縛る著作権をある程度ゆるくしています。これによって、集まった素材をCCライセンスの許す範囲で、自由な創作のための素材としていこうという事ですね。
このプロジェクトに賛同してくれたアーティストさんからものすごい数の素材が集まっています。無名のアーティストから、坂本龍一さんのような大御所まで、作品ジャンルや国籍も本当に様々です。このプロジェクトによって、雑多な素材、と言ったら失礼かも知れませんが、本当に様々な音と映像がアーカイブとして集まりました。

吉田 これは何年から始ったプロジェクトなんですか?

齋藤 2008年にアメリカでスタートして、2009年に日本に紹介されました。dublabのメンバーが来日して、これらの素材だけを使ったライブも行ったりしました。この素材を使ったリミックスが行えるiPhoneアプリも配信されています。

個々の素材は8秒の短いループ音源で、全てSoundCloudにアップされており、自由にダウンロード出来るようになっています。それを素材として自由にリミックスや二次創作をしてもらって、それを再びSoundCloudにアップするという循環を試みています。その他にも、DJ KenseiさんとDJ sagaraxさんのユニットであるcoffee&cigarettes bandがこのループを使って曲をリリースしたりセッションライブを行ったりしていて、これらの素材を使った広がりが生まれている所ですね。

最近(註:2011年9月)では、dublabのbonus beat blastという新たなビート素材集がアップされました。DaedelusやJames Pantsなんかが提供したビート集なんですが、dublabへドネーションするとダウンロード出来るようになっています。ダウンロードした人は、これらのビートを自由に使って良いということですね。クレジットさえ表記してくれれば、どのように使ってもOKで、自分のCDの中にこの音源を使って売っても良いし、DJやライブでプレイしても良いし、それで入場料とっても良い。そういう実験的な試みもやっています。

吉田 もう完全に従来の音楽の作り方とは異なってますよね。

齋藤 原雅明さんの『音楽から放たれるために』という著書がありますが、まさにこのタイトルそのものと言えるような状況が起こって来ていると思います。
従来の音楽ーーイントロがあって、Aメロがあって、Bメロがあって、サビ、ギターソロ、というようなものと全く異なる音楽の音楽の在り方ですね。音楽を素材として捉えて、それがどんどん使われていくことが前提になっているような作り方であり、聴き方をされている。一旦作られた音は自分の手から離れていって、他の人の作品の一部としてリサイクルされて、それがまたDJによってMIXされて…。という形で、どんどん変化を遂げていく。そういう過程が面白いと思います。

そしてそこは著作権的に捉えると、非常に難しいところなんです。基本的に著作権法上、作品の改変はできないということになるからです。そこをクリアするためにCreative Commonsライセンスというものを使っていこうという事なんですね。

吉田 音楽そのものにおける実験というよりは、音楽を介したコミュニケーションなど、音楽の使われ方という点で凄く実験的な試みだと感じました。

齋藤 そうですね。この辺りはまさに現在進行形で、色々な企画を動かしています。実はまさに今日、Daisuke Tanabe君とBun君、原雅明さんとでこの講義の前に打ち合わせして来た所です。幡ヶ谷forestlimitを使ったイベント『Cloud』も予定しています(※2013年2月現在、既に2回開催されている)ので、是非注目してみてください。