特別講座「ω(オメガ)芸術表現 ―― 宥学会・遊学塾 」第1回



かつて美学校に、観念美術の創始者である松澤宥が主催した「最終美術思考工房」が存在した。最終(ψ=プサイ)美術、すなわち既存の価値を変換して新しい価値観による美術を創出しようとする教場であった。本講座は、その継続体であるとともに、そこで表現しきれなかった側面にも光を当てることで、最終(ψ)から最後(ω)へ――の認識のもと、新たな美術表現の可能性を探ろうとする教場である。

主催は「最終美術思考工房」最終年卒業生3名によって結成された宥学会。連携する「思想の錬金術師養成教場」講師陣を含む錚々たるゲスト(作家・批評家など)もナビゲーターとして迎える。講義者は、自らの思想体系をもとに新たなる思想の構築を図るとともに、言語・映像・パフォーマンス等々の表現史の再検証を通じて、場に新しい価値観の予兆が醸成されることを狙う。また、松澤宥七回忌で発見された「世界蜂起計画」の開陳および検証も行い、「世界蜂起計画22」実現のための運動体ともなる。したがって、講義者の一方通行にとどまらない交流の場となることも期待する。

■宥学会
松澤宥の知られざる研究や未公開の作品の探索・整理・保存を担う機関であるとともに、松澤を(崇めるのではなく)触媒とすることで表現者の思考の資とすべく研究・議論・雑談することを旨とするグループ。出版・展覧企画などの活動を志向し、「世界蜂起計画」の一翼を担う「表現情報資料センター」を継ぐ機能の獲得もめざす。

【ω芸術表現関連:経緯・活動】
2005:松澤宥より「裏ψの箱を瞑想台に埋めよ」指令(伊丹宛)
2006:松澤宥消滅
2007:05年指令による「秘儀-虚空会」を執行(参加22名)
2011:松澤家より詩集刊行依頼(渡辺に打診)
2012:3月、宥学会発足
   10月、松澤宥詩集「地上の不滅」復刻(宥学会刊)
   「世界蜂起計画」発掘
   12月、美学校特別講座「ω芸術表現」開講
2013:瞑想台遷座の検証と儀式
2014:「世界蜂起計画22」第一弾公開
   松澤宥選詩集発行(出版社未定・宥学会編)


第1回 12月8日

「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」を探る

企画者:アリス・モード・ロクスビー(ファルモス大学写真学部教授)

様々な既成の枠組みや権威が崩れていく現代、過去において同様の一大変換期であった60-70年代に発展したアーティストによるワークショップを見直すことにより、未来に向かう何からの示唆を受けることが可能なのではないか・・・60年代、時代の政治、社会、文化的変容に呼応して創立された3つのオルタナティブ美術学校に焦点を当てた「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」展示会を企画するアリス・モード・ロクスビー(ファルモス大学写真学部教授)さんと共同企画者の嶋田美子(アーティスト)さんをゲスト講師としてお迎えし、質疑応答の公開講座をいたします。

「アイオワ州立大学内インターメディア・プログラム」と「コペンハーゲンのエクスペリメント・スコーレン(実験学校)」と現代思潮社・美学校の3校の教育内容なども紹介されます。当時の美学校に在籍していた方々のお話なども伺えれば、この企画をより充実させる意味でこの上ない喜びです。当時を良く知る美学校生・関係者の参加を大歓迎いたします。お気軽に参加していただければ幸いです。


講 師:窪寺雄二・渡辺彰・米谷栄一+伊丹裕+ゲスト講師(アリス・モード・ロクスビー、嶋田美子)
日 程:2012年12月8日(土)(講座は毎月第2土曜日開催)
               ※その他の回のアーカイブはこちらをご覧ください。
時 間:19:30~
場 所:美学校(地図
    東京都千代田区神田神保町2-20 第二富士ビル3F
参加費:1500円
申込み:受講申込みは不要です。直接美学校にお越しください。


第1回 12月8日

「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」を探る

企画者:アリス・モード・ロクスビー(ファルモス大学写真学部教授)

現代思潮社・美学校部門共同企画者:嶋田美子(アーティスト) 概要 私たちは今時代の変換期を迎えているといっていいだろう.様々な既成の枠組みや権威が崩れていくのを目の当たりにしながら、政治、社会、文化、教育等さまざまな分野で閉塞感が蔓延している.このようなときに、過去において同様の一大変換期であった60-70年代に発展したアーティストによるワークショップを見直すことにより、未来に向かう何からの示唆を受けることが可能なのではないかとわたしたちは考える.60年代、時代の政治、社会、文化的変容に呼応して創立された3つのオルタナティブ美術学校-アイオワ州立大学内インターメディア・プログラム、東京の現代思潮社・美学校、コペンハーゲンのエクスペリメント・スコーレン(実験学校)-に焦点を当て、その教育・経験を再検討するための展覧会と出版をわたしたちは提案する.これら3つの教育プログラムは、激動の時代に直面しながら、美術の枠内に留まらず、既存のヒエラルキーに対抗し、世界の新たなモデルを獲得する手段としての芸術表現を鍛錬することを目指したものである.現在理念と倫理を失い、「アーティスト養成所」と化した感のある美術教育を考え直す上でも、これらの3プログラムの真摯な問いかけと実践の検証は非常に重要である.

この再検討の中心は、60-70年代に行われたアーティストによるワークショップでの、グループとしての身体的な経験とそれを通じて得られるジャンルを超えた交流におかれている.これらのアーティストのワークショップは、アートとは何か、またアートはいかにして生活と直接関わることができるのかという根源的な問いを多層的に開くものである.アートを「教える/教わる」という枠から解放するために、これらのワークショップでは「パフォーマンス」がしばしば用いられ、それらはその場所限りで形として残らない「イベント」に収斂された.その証拠として現存するのはフィルム、写真、メモ、その他の文献であるが、個々の学生の作品の中にもそれは集団体験の記憶として残っている.

私たちはこれを展覧会として実現するにあたり、先端的アーティストのワークショップがどのように企画から実際に移されたかを具体的に検証することによって、これらを過ぎ去った昔の出来事として歴史の中に閉ざすのではなく、現在も継続するアートと生活をつなぐ可能性への「対話」を促進するものになるのを期待している.ここに展示されるのは、それぞれアイオワ、東京、コペンハーゲンで同時代に発生した3つの美術教育プログラムに関する資料-アーティストによる企画書、フィルム、写真、マニフェスト、指導メモ、オブジェ、絵画、現在のアーティスト、生徒によるワークショップの再現等である……


ゲスト講師プロフィール

Alice Maude-Roxby
アリス・モード・ロクスビーはアーティスト、写真家.近年はパフォーマンスアートの写真記録について広範な研究を行っている.2007年,8年にはサウスハンプトンとロンドンで「ライブアート・オン・カメラ」という展覧会を企画した.この展覧会は50年代以降のパフォーマンスアートをドキュメントした写真やフィルムに関するものである.また、同じテーマでテート・リバプールで行われた「アートと嘘とビデオテープ」展のカタログを執筆した.フランシス・マッソンとの共著に「ジナ・ペインの広告、建築、アクション」(アートプレス刊)がある.
彼女のパフォーマンスアート記録写真家へのインタビューをもとにした研究は、AHRC、英国アートカウンシルの助成を受けた.アーティストとしての写真作品はベルリン、ロンドン、シェフィールドなどの画廊で展示されている.近年の研究について、国内外で講演も数多く行っている.現在ファルモス美術大学写真科の主任教授.

嶋田美子
1959年立川生まれ、82年にカリフォルニア州スクリップスカレッジ卒業.1989年、昭和天皇の死に際して、第二次世界大戦に関するテーマを探求し始めた.嶋田の版画とインスタレーション作品は戦争におけるアジアと日本の女性の役割を問うものである.その後嶋田は米軍基地の町であった立川を背景にした写真とビデオをベースにした基地売春についての作品を発表.2004年から5年間、世界を巡り、「家族の秘密」を集め、研究し、展示するプロジェクトを行った.2010年以降は、1969年に設立された「現代思潮社・美学校」の研究に専念している.その焦点となるのは、変革の時代におけるラディカルな美術と政治の交錯である.現在はこの研究でイギリス、キングストン大学の博士課程在籍中.


講師プロフィール

窪寺雄二
美学校最終美術思考工房の最終年在籍。以後、断続的に美学校とのかかわりを持つ。現在は写真を手掛け、舞踏・演劇・パフォーマンス等を主な被写体として表現の現場を記録している。戦後日本の美術界が最も過激だった60年代(~70年代)を振り返りながら、何が面白かったのか、今何が面白いのか、を探っていきたい。

渡辺彰
美学校最終美術思考工房、Bゼミスクール理論専修卒。詩集に『谷間からの十五篇』(沖積舎)『風の頬まで』(深夜叢書社)『詞』(開扇堂)など。“現実への逃避”が進む社会で表現行為の拠って立つ場は…? 松澤表現の原点である詩を素材として同時代の詩と美術の状況を辿るのを皮切りに、戦後日本の多分野の表現史を再検証することで現在状況にコミットする問題を提出し論議したい。

米谷栄一
美学校では、「最終美術思考工房」(松澤宥)に学んだ後、「インド哲学講座」(松山俊太郎)「絵画教場」(菊畑茂久馬)に学ぶ。以後、画廊企画展・グループ展・芸術祭・アートイベントへの出品多数。沢山の絵画作品を持参した私に、松澤先生が言ったのは「消滅!」のひと言だった。私が松澤先生に関わってものを言う場合、欠かせない場面である。しかし制作することを「消滅」させることは出来なかった。私はものを作ることで、手で考えるような人間である。先生はそんな私を面白がってくれたように思う。そして「今日の作家展」「牛窓国際芸術祭」「弁天海港佐久島アートイベント」など、先生と同じ機会に作品を発表した。私は「消滅!」を目の前に据えて、どんなものをどのように作ってきたか。そしてそのときどきどのように先生と関わったかをお話ししたい。

伊丹裕
「思想の錬金術師養成教場」紹介文を参照。